辨 |
オケラ属 Atractylodes(蒼朮 cāngzhú 屬)には、東アジアに4-7種がある。
A. carlinoides (鄂西蒼朮) 湖北産
チョウセンオケラ A. koreana (A.lancea var.koreana; 朝鮮蒼朮)
朝鮮・遼寧・山東に産 『中国本草図録』Ⅲ/1387
A. lancea
ホソバオケラ var. lancea (南蒼朮・茅山蒼朮・茅蒼朮・茅朮・赤朮)
『中国雑草原色図鑑』243 岩崎灌園『本草圖譜』
シナオケラ var. chinensis(A.chinensis;北蒼朮・山蒼朮・蒼朮・槍頭菜・山刺菜)
オオバナオケラ A. macrocephala(Atractylis macrocephala;白朮・于朮・朮)
オケラ A. ovata(var.ternata, A.japonica 關蒼朮・和蒼朮・東蒼朮)
IPNI・『植物智』は、A.ovata, A.japonica はいづれも A.lancea のシノニムとする。
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キク科 Asteraceae(菊 jú 科)の植物については、キク科を見よ。 |
訓 |
漢字 朮は、
shú シュツと読む時は もちあわ(五穀を見よ)、
zhú チュツと読む時は おけら。
ただし、日本ではいずれの場合もジュツと読み慣わしてきた。。 |
李時珍『本草綱目』朮の釈名に、「山薊本経。楊枹音孚。枹薊爾雅。馬薊綱目。山薑別録。山連別録。吃力伽日華」と。 |
『本草和名』朮及び『倭名類聚抄』朮に、「和名乎介良」と。
『延喜式』白朮にオケラと。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』に別名を挙げて、「白朮 ヲケラ延喜式 ウケラ ウケラガハナ古歌。 蒼朮 ヲケラ サキクサ ヱヤミグサ アカヲケラ ワレモカウ越中同名多し」と。 |
説 |
本州・四国・九州・朝鮮・遼寧・吉林・黑龍江・河北・内蒙古に分布。 |
誌 |
オケラ属の根茎は、東洋医学では古来重要な薬品。
古く『爾雅』釋草に「朮(チュツ,zhú)、山薊(サンケイ,shānjì)」と載るのは、シナオケラであったろうという。のちに陶弘景(452-536)は、蒼朮(ソウチュツ,cāngzhú)と白朮(ハクチュツ,báizhú)などを区別した。
日本では、オケラ属の植物はオケラしか産しないので、その根茎を加工して蒼朮(そうじゅつ)と白朮(びゃくじゅつ)と称する二様のものを作ってきた。
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今日の中国では、次のものの根茎を薬用にする。
『中薬志Ⅰ』pp.308-313,142-145 『(修訂)中葯志 』I/152-164 『全國中草藥匯編 上』pp.282, 441-442
白朮(ハクチュツ,báizhú,びゃくじゅつ):
オオバナオケラ A.macrocephala(白朮)
蒼朮(ソウチュツ,cāngzhú,そうじゅつ)::
ホソバオケラ A.lancea(南蒼朮・茅蒼朮)
シナオケラ A.chinensis(北蒼朮)
オケラ A. ovata(A.japonica;關蒼朮・和蒼朮・東蒼朮) |
日本では:
生薬ソウジュツ(蒼朮)は ホソバオケラ、シナオケラ又はそれらの種間雑種の根茎であり、
生薬ビャクジュツ(白朮)は オケラの根茎(和ビャクジュツ)又はオオバナオケラの根茎(唐ビャクジュツ)である(第十八改正日本薬局方)。 |
日本では、嫩葉を食用にし、また根茎を屠蘇酒の材料の一にする(オオバナオケラの誌を見よ)。
俗謡に「山でうまいはおけらにととき、里でうまいはウリ、ナスビ」とあるといい、或いは「山でうまいのはをけらにとゝき 嫁にやるのも惜しゅござる」とうたうという(武田久吉『民俗と植物』に、後者は信州の俚謡という)。 |
『万葉集』に、
こひ(恋)しけばそで(袖)もふ(振)らむをむさしの(武蔵野)の
うけらがはな(花)のいろ(色)にづ(出)なゆめ (14/3376,読人知らず)
わがせこ(背子)をあ(何)どかもい(言)はむむさしのの
うけらがはなのとき(時)な(無)きものを (14/3379,読人知らず)
あぜかがた(潟)しほひ(潮干)のゆたにおも(思)へらば
うけらがはな(花)のいろ(色)にで(出)めやも (14/3503,読人知らず)
3首ともに東歌で、はじめの2首は武蔵国の歌、3首目のあぜか(安斉可)潟は、常陸下総国境にあるあぜ(安是)湖(『常陸国風土記』)かという。 |
京都の八坂神社で大晦日にとりおこなわれる白朮祭(おけらまつり)では、オケラの根を焚き、その火を持ち帰って新年元旦の火にする(これを「白朮参り」という)。
「昔は呉服屋が反物の土用干しをする際、おけらの根茎を火にくべ、煙でいぶし、カビを防いだ」(薬用植物園)。 |